中国1950年代の版画招貼(ポスター)-2

更新日:2019年11月15日
ポスター「産業の力」
 当時中国の非識字率は80パーセントを超えていましたから、ポスターは直感的に理解の出来る構成と平易なスローガンの言葉を用いて抽象的な政治理論や難解な政策・方針を分かりやすく表現しました。このようなポスターは当時の中国人民の文化的資質と教育水準などに非常に合致したと言われています。
 また、大量に製作されたポスターのコストは安く、普及率も高かったため、ポスター1種類が数百万部も印刷され、なかでも神格化された毛沢東の肖像画は何億と印刷され各家庭に飾られました。そのため中央から最も遠隔の地域であっても広く流通し、地方の街中や広場、学校や文化宮、国営農場、大小の工場、作業現場や部隊など、いたる所でプロパガンダポスターを見掛けることが出来たそうです。
 文化大革命の時代には中国共産党は毛沢東を称える数多くのプロパガンダポスターを発行しました。この頃に発行された年代物ポスターを見ると、中国は当時、文革とその目的について全く別の見方をしていたように思われます。政府が発行したポスターの多くは、産業を育成することと徴兵を奨励するために、農民や兵士たちが国家のヒーローとして褒め称えられています。登場人物の多くが毛沢東語録の赤い小冊子を手に持つ姿で描かれています。
 これらのプロパガンダポスターを描くのは洋画家でも中国画家でも、一つの誇りだったようで、高名な画家も多くの原画を発表しています。1950〜60年代までは、画家にとって発表の場が極端に制限された時代であったことも原因の一つかもしれませんが、ポスターによって人民の意識が極端に方向づけられた時代だったのかと恐ろしさすら感じてしまう筆者です。
 図版の説明をします。この木版画は「産業の力」と題され、2人の労働者のうちの1人が毛沢東語録の赤い小冊子を抱えています。多くの人々が、罰を逃れる目的でこの赤い小冊子を常に持ち歩いていました。
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