篆刻芸術と印材の名称-1

更新日:2020年04月01日
敬天齋主人収蔵印
 篆刻家はもちろんですが、書道家にも印材をたくさんお持ちの方はいらっしゃいます。自分の雅号印のほかに鑑賞の対象として蒐集している方もいるでしょう。筆者も印材は好きで、超高価な印材は求めていませんが、1990年頃より訪中するたびに多くの種類の石印材を蒐集してきました。
 現地の印材店などで初めて見るような印材を見かけると、その名称を教えてもらい、帰国してから書籍や資料などで調べてみるのですが、絶対の自信をもってその名称を確認するのは至難の技です。それほど石印材の名称はややこしいのです。
 古代中国においては使用する印材によってその所有者の身分を示しました。上位から玉(宝石)、金、銀、銅となり、 玉印材は、翡翠、瑪瑙、水晶などでした。秦の始皇帝から皇帝のみが最高位の印章である「玉璽」を用いるように定めました。これらは使用目的としての印章ですが、北宋時代になり文人がその余技として篆刻を嗜む人が現れます。それは開祖と言われている米★(フツ)です。
 米★以前は文人自身が字入れして専門職人が刻しました。それは玉、象牙、犀角、水晶など材質が硬かったためですが、明代中期になり、凍石(石印材)を手に入れた文彭、何震といった当時、最も傑出した篆刻家が現れると、一気に石印による篆刻芸術が広がりました。
 18世紀になると杭州に丁敬を開祖として浙派(西★印派)が、さらに清末期にケ石如が沈滞する篆刻に革新を行ないケ派の祖となりました。さらに趙之謙はケ派と浙派を総合して新浙派を、そして呉昌碩、斉白石など次々と優れた篆刻家が現れたのです。
 次号では印材の具体的な名称と篆刻家も重宝する印材を調べるのに便利な書物をご紹介します。
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