張本-2

更新日:2021年11月15日
尋尊『大乗院日記目録』第44冊 紙背文書より(国立公文書館内閣文庫蔵)
 さて、現代は張本人という言葉が使われます。張本人は「事件の起こる元を作った人。首謀者。張本。」です。この「張本人」という言葉ですが、「本人」という単語の前に「張」が付いたとお思いの方が多いと思われますが、実は違います。
実は「張本人」という言葉は「張本」という言葉が元になっています。「張本」の「張」とは、弓や琴などの弦をゆるみなく引き締めることで、そこから「張り巡らす」や「催す」といった意味合いも持つようになりました。また、「本」は根本のこと。つまり、「張本」で、ものごとを根本から張り巡らせる、つまり「物事を周到に準備すること」や「伏線を張ること」の意味を持つとされています。
中国では、同様の意味を指す言葉として「罪魁」「主谋」「祸首」という言葉が使われておりますから、張本人は完全に日本語独特の言い回しであることが分かります。
 それがやがて特に悪事に対して用いるようになり、悪事を引き起こした原因、悪事の元を「張本」というようになり、そこに「人」をつけて悪事の原因を引き起こした人物本人を指すようになったわけです。そしてこの「張本人」という言葉が使われ始めたのは室町時代まで遡ります。室町時代は正長の土一揆[正長元年(1428年)]に代表されるように百姓一揆や政争など為政者を悩ましていた時期です。尋尊の『大乗院日記目録』には、
  「正長元年九月 日、一天下の土民蜂起す。
  徳政と号し、酒屋、土倉、寺院等を破却せ
  しめ、雑物等恣に之を取り、借銭等悉く之
  を破る。官領、之を成敗す。凡そ亡国の基、
  之に過ぐべからず。日本開白以来、土民の
  蜂起之初めなり。」
と記載されており、そんな社会不安が高まる時代背景のなか、「張本人」という言葉が生まれたのでしょうね。
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