茶藝と朱砂壺-2

更新日:2015年08月17日

 茶壷の材質は、主に陶器製、磁器製、ガラス製の三種類ありますが、中国茶の世界では「養壺」という言葉にあるように、長年の使用で茶渋が付着し、風味のよい香りが楽しめるなど、独特の手入れが必要な陶器製茶壺についてお話ししたいと思います。
 一口に陶器製茶壺といっても種類は様々ですが、中国江蘇省の宜興(ぎこう)で産出する深い紫色の土は「紫砂(しさ)」と呼ばれ、この紫砂で作った茶壼を「紫砂壺」と言い、茶壼最高の道具として昔から珍重されてきました。茶壺としての機能性と、鑑賞面における装飾性、つまり「用と美」の双方の楽しみがあって目を楽しませてくれるのが人気の理由でしょう。
 清朝中期、宜興県に隣接する★陽県の知県事だった陳鴻寿(1768〜1822)は、書畫篆刻と併せ、当時の一流文人趣味を具現化した砂壺のスタイルや銘文を刻すなどして制作した後に「曼生壺」と呼ばれる名品を発表し、その人気は全中国にまで広まりました。
 また、曼生一八式というデザインパターンは生宜興窯の定番として現在まで制作されましたから、曼生壺がなければ現在の宜興は無かったかもしれません。陳鴻寿は自ら作陶することはなく、茶壺のデザインを手がけ、実際の制作は楊膨年(楊氏三兄弟)が手掛けました。
 日本の茶道は質朴、自然を第一に「和敬清寂」の奥深さと、佗びさびで幽玄な境界へ進む精神性を大切に進化してきました。しかし、昨今の中国茶ブームは高級ブランド化した茶葉を生み出し、ニューリッチ層が貴重な金銀の茶道具を競って買いあさり、身分・地位の高さや贅沢な暮らしを誇示する、本筋(本道)から離れた精神満足の世界に没頭しており、嘆かわしい限りです。

★…さんずい編に「栗」

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