●(左)田中角栄総理と周恩来総理の会談(右)田中角栄総理と毛沢東国家主席の会談
1972年(昭和47)9月、故田中角栄元総理が日米首脳会談後に大平正芳外務大臣、二階堂進官房長官とともに中華人民共和国北京を訪問し、当時の周恩来総理と毛沢東共産党主席と会談しました。9月29日、両国の共同声明により日中国交正常化が実現し、日華平和条約の終了を確認しました。この際、周総理は角栄氏に色紙を与えました。そこには「言必信、行必果」と書かれていて、角栄氏は非常に喜び「信は万事の本」(信為万事之本)と返しました。原典は『新唐書』巻105・列傳第30で、「信義は全てのものごとの基本だから、誰が相手でも破ってはいけない。」と返したのです。
しかし、周総理の本意は
「約束したことは必ず守ってくださいよ。やりかけた仕事は必ず最後までやり通してくださいよ。」
という言葉だったのです。
この出典は「論語」の子路第一三に出てくる一節ですが、必ずしも褒め言葉とは言い難いのです。何故なら、この言葉のあとに「??然小人哉」と続くからです。その意味は「リーダとはどういうものか」という子貢の問いに、孔子は
「己を行うに恥あり、四方に使いして君命を辱めざれば、士というべし」
と孔子は答えます。さらに「??然として小人なるかな」と続きます。この一節、??(こうこう)とは石ころのことです。つまり日本国総理の角栄氏に対して「道端に転がる石ころみたいな小者」と言っているのです。角栄氏の教養の無さと中華人民共和国のしたたかさ、何より中国に舐められているとの非難を受けたのです。
次号では、「言必信、行必果」が有言実行や言行一致を求めるとともに、たとえ朝令暮改でと言われても、「義」があるなら修正するのが「大人」とする概念についてお話しします。