八寶印泥-1

更新日:2016年10月01日
八寶印泥
 最近、篆刻家の方から書畫作品に落款印を押すときに用いる印泥の質がよくないと耳にします。印泥そのものの色が悪くなったのと、押した後、数年経過すると黒ずんでくるものもあるようです。また、印泥の入れ物である印盒(合子)も、一昔前なら趣ある焼き物や七宝、堆朱などがありましたが、近年の印盒は龍がうねった図柄の、いかにも安物の白磁青花で、中国趣味を勘違いしたようなものばかりです。
 古き佳き時代の印泥を代表する「八寶印泥」があります。その原料は「珍珠(真珠)、瑪瑙、珊瑚、麝香、梅片、金箔、琥珀、猴」など八種類の珍奇な香料や薬剤を混ぜて製せられることから名付けられています。創始者は康煕一二年(1673)、★[さんずい+章]州にある薬剤商「麗華斎」を経営する魏長安と言われていますが、薬剤研究に熱心で「八寶膏薬」という万能外傷薬を作り出したものの、材料費など原価が高額だったため一般庶民が買い求めることが出来ない価格となり、商売は上手くいかなかったようです。
 当時、ちゃんとした印泥は非常に高価なものでしたが、書画の落款印や収蔵印などに優れた印泥を必要とする人であれば、それ相応の経済力のある階層ですし、蒐集した貴重な書蹟、畫帖などに押印する場合、少々高価であっても良い印泥を買い求めたようです。やがて製法において秘中の秘であった八寶印泥の名前は広く喧伝されたこともあり、「八寶」を冠した印泥はさまざまな業者によって作り出すようになりました。
 次号では、その後の「八寶印泥」について、少しお話ししたいと思います
←前へ 目次 次へ→