端渓老坑水岩硯-1

更新日:2018年09月01日
老坑水巌坑の洞口
 書道家であれば誰しもいい硯を持ちたいと思います。なかでも端渓硯は中国広東省肇慶市の斧柯山(ふかざん)一帯に点在する、良質の硯を産出する坑や周辺から採石され、数ある名硯のなかでも圧倒的な人気を持ち、多くの著名な文人墨客が所有、伝来して来ました。その歴史は古く、唐代の武徳年間(618年〜626年)にまで遡り、極めて良質の硯石を産出することで名を馳せましたが、宋代に量産されるようになってからは一躍有名になりました。さらに明代末になると。 斧柯山地下に新たな採掘坑を掘り、乾季に坑道から水を汲み上げて採掘する「水厳(すいがん)石」を採掘するようになりました。宋代・趙希鵠(生卒年未詳)「洞天清禄集(1190年頃著)」によって知り得ますが、採石作業は狭い洞中から溢れ出る湧水が減る冬季の数ヶ月間に限定し、甕で水を汲み出しながらツチとノミだけを使って採石する重労働だったようで、その労苦は筆舌に尽くし難いものだったようです。
 硯石が採石される洞坑は、どの時代においても約70坑ほどもあるそうで、採掘する場所や時代によって石質が異なり、それぞれの特徴を持っています。 優れた端渓硯が採石される洞坑には、美麗で石質が細潤な端渓第二の硯坑「麻子坑(ましこう)」、石質が非常に老坑に似た端渓第三の硯坑「坑仔巌(こうしがん)」、そして清代・康煕年代から採石された「朝天岩(ちょうてんがん)」などがあるのですが、そのなかで最も優れた洞坑は明代の万暦年間(西暦1573〜1620)から採石されたとされる「老坑水岩(ろうこうすいがん)」です。かつては採石する標高により「上厳」、「中厳」、「下厳」に分類され、標高の低いところで採石されるほど良質の硯石とされていましたが、現在は山頂付近でも良質の硯石が採石されています。 一般的に唐代末から宋代には下巌、明代以降は水巌、康煕年以降は老坑と呼んで区別しているようですが、皇帝の勅許がないと採石出来ない特別な洞坑であったため「皇岩」とも呼ばれました。
 次号では老坑水岩の特徴とその魅力についてお話ししたいと思います。
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