●1866年頃(左)と1922年(右)の渋沢栄一
『論語』為政に「温故知新」という四字熟語があります。原文は「温故而知新、可以為師」で、故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知る、意です。『論語』は原稿用紙にすれば三〇数枚程度の人の道を説いた儒教書で、中国の古文で書かれているため、これまで様々な解釈がなされてきました。それは「時代が変わっても変化しない人間と人間社会の本質」について取り上げられているからです。だから如何なる時代であっても廃れることなく教養書や人生訓として読み継がれてきました。
「温故知新」とほぼ同じ意味で使われるものに「覧古考新」もあり、こちらも「古い事柄を振り返ってから、新しいことを深く考える」、または「古い出来事を参考にして新しい考察を得る」という意で、出典は『漢書』叙伝です。
同義語が無いのか調べてみるとあるは、あるは、次々と出てきます。「継往開来(朱子全書・道統一・周子書)」「因往推来(揚子法言)」「観往知来(列子/説符)」「彰往察来(易経/繋辞)」「承前啓後(出典不詳)」などが挙げられます。
さて、「日本の資本主義の父」と称された実業家・渋沢栄一[1940年3月16日〈天保11年2月13日〉〜 1931年〈昭和6年〉11月11日]は、大正初めに講演録をまとめた『論語と算盤』を著しました。「算盤」は商売のことですが、そもそも商売はライバルを出し抜いたり、様々な駆け引きが行われる、まさに「生き馬の目を抜く」世界です。しかし、だからといって何をしてもいい訳ではなく、金銭を卑しみ清貧を貴ぶ江戸時代までの日本の儒教道徳を覆し、孔子が説いた「道理をもった富貴」、つまり道義に基づいた手段方法も以て人々は働く意欲を持ち、やがて国は繁栄する、と説きました。渋沢は、『論語と算盤』を通じて「道義を伴った利益追求しなさい」と言ったのです。
次号では日中関係で登場した「温故創新」の話題についてお話しします。