上医医国-1

更新日:2021年08月01日
道家経『淮南子』説山訓(左)と『国語』晋語
 もう1年半以上も前の話になるんですよね。新型冠状病毒感染的肺炎(新型コロナウイルス)の全世界への爆発的感染の広がりは余りにも衝撃でした。命を落とされたかた、そのご家族には心より哀悼の意をささげます。第5派の広がりが現実になっている昨今、まだまだ予断を許しませんが、ワクチンや特効薬のない死と隣り合わせで働いてくれた医療従事者には心から感謝したいと思います。そのお医者さんの評価基準は時代とともに変わってきました。現在は病気を治せばいいお医者さんですが、昔はより厳しい評価基準がありました。
 中国には物事を上中下、すなわち天人地に分けて良し悪しを論じる「三才」思想があり、医者の評価も同様に行なわれました。前2世紀の道家経『淮南子』説山訓の「良医は常に無病の病を治す」とあり、さらに1世紀頃の医学最古典『素問』四気調神大論篇には「聖人は発病後ではなく、発病前に治す」といい、さらに「発病してからの投薬は、喉が乾いてから井戸を掘るようなもの」と厳しく断定しています。
2世紀頃の針灸古典『難経』七十七難の経典にも、上医は発病前に、中医は発病後に治すとあり、つまり上医は肝に病あれば発症する脾を察知して強めて発病させない。しかし中医は病が分からずに肝だけを治すとあります。そして下医が追加された『霊枢』邪気蔵府病形篇には、三種の診察法を持つ上医は9割率で治し、二種の中医は7割、一種しか持たない下医は六割しか治せないとしています。『霊枢』根結篇によると、上医は針で気を調和させ、中医は脈を乱し、下医は気絶させ命をも危うくするとあります。こうなると中医や下医には診てもらわない方が良さそうです。
 四書五経のひとつ『国語』晋語に、「上医は国を治し、人を治すはそれに次ぐ」という言葉があり、すぐれた医者は、国の疾病である戦乱や弊風などを救うのが仕事であって、個人の病気を治すのはその次だという考えです。5世紀の医方書『小品方』に「上医は国を治し、中医は民を治し、下医は病を治す」という格言があります
 次号では病気を治す以上の名医の在り方、その思想についてお話ししたいと思います。
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