国潮(愛国心)-1

更新日:2022年08月01日
子供の教育に求められる愛国主義的行動
 中国社会におけるナショナリズムの高揚は国際社会に注目されていますが、とりわけ「愛国無罪」というスローガンめいた思考は中国近隣のアジア諸国だけでなく、欧米各国からも批判の声が高まっています。愛国の発端は1990年代に中国政府が推進した愛国主義教育運動で、愛国心の担い手である国民に国民意識を自覚させる中心的な役割を担うのが教育であったことは間違いありません。このような思想は1949年の建国以来、 教育は各時代における政権の要請に応えるよう求められ、学校教育は国家発展のため、愛国主義教育は徳育の一部として人材育成の場として形成されてきたからだと言われています。
 中国の研究状況は日本でも知られているところで、数多くの愛国主義教育を論じた出版物や論文が存在するものの、 そこには共通した二つの特徴があります。第一に、それらは政府が愛国主義教育政策を打ち出 した時期に刊行されたということ、第二に、内容的はその殆どが政策宣伝または教育方法の検討 、提案であって、いずれも批判的、分析的観点を欠いたものである点です。
 つまり、日本の評論家は、日中関係悪化の根源が中国の愛国教育にあるとし、それによって中国人若者の嫌日感情が煽られたと倭小(わいしょう)化 させようと指摘していますが、説得力は十分ではありません。中国での議論はその時の政策に追従して称揚し、国民に愛国的行動を求めるものばかりです。そういう意味では、愛国心とは祖国や故郷を愛するごく自然な考えではなく、中国共産党やその支配体制を愛するということなのでしょう。「高度な自治」を骨抜きにした香港基本法は、香港の政治から民主派を排除するために設けられた法律です。どのような体制でも権力者側は、愛国心を押しつます。戦前の日本でも政府が『愛国心教育』を強調してきたことが思い起こされます。
 次号では今月のテーマ「国潮(愛国心)が高まる国内事情とその理由について、また中国政府の思惑についても触れてみたいと思います。
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