鴛鴦七誌斎製-2

更新日:2021年01月15日
筆者蒐集「鴛鴦七誌斎製墨」
 曹叔琴は優れた墨型の製作を著名彫刻家に依頼しました。彼は我が国の富岡鐵齋の求めから「鐵齋翁書畫寶墨」を作ったことでも知られていますが、この墨は、文革前の公私合営による「大好山水」や「国家第一」などとともに日本人にも大変、人気がある墨です。
曹叔琴は、于右任が旧蔵し、民国初年(1939)に西安碑林博物館に寄贈した「鴛鴦七誌斎」墓誌の名称から鴛鴦七誌斎を創始しました。
  鴛鴦(えんおう)はオシドリ、蘇州古版画などにもよく描かれる題材です。鴛鴦七誌とは、かつての国民党政府監祭院院長で書法大家と呼ばれた于右任が、1924年、洛陽の骨董商人から、漢、晋、北魏、北斉、北周、隋、唐などの碑、墓誌290余石を購入しましたが、そのうち「鴛鴦七誌斎」蔵石と称されたのは、元珽及其妻穆玉容墓誌、穆亮及其妻尉太妃墓誌、元誘及其妻馮氏和薛伯發墓誌、元遥及其妻梁氏墓誌、元譚及其妻司馬氏墓誌、赫連子悦及其妻閭衒墓誌、李挺及其妻劉幼妃墓誌の七墓誌です。
 オシドリということですから、これらの墓誌は夫婦合葬された墓誌であると思われます。これらの藏石は西安から東に400キロも離れた洛陽近郊に出土しましたが、右任が軍事、行政の責任者として陝西、河南を管轄していた1920年代に熱心に蒐集したようです。そして右任はこれら蔵品を西安碑林に寄贈したのですが、これを所以としてこの墨が造られたのだと思われます。
 時代を経た中国古墨は煤、膠、香料以外に麝香、冰片、梅片、三七、丁香、馬宝、猪胆、群青、石緑、金箔など、実に十数種類もの原料が調合されています。それにより煤は微妙な変化として溌墨効果が表れるそうです。明、清製造の古銘墨がしっかりした形で残存し、かつ滲み具合、香り、腐食、 風化への耐久も強いのはその証明と言えるでしょう。
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